令和2年・バックナンバー

令和2年4月
第3部 菩薩行を説く経論

学びの森



 ⑥十住毘婆娑論(5)
 今回も、『十住毘婆娑論(じゅうじゅうびばしゃろん)』に説かれている内容をご紹介させていただきます(なお、以下は、『こすもす』紙上で連載させていただいた内容をもとに一部改変しております)。

 

 初地の菩薩は、布施波羅蜜(布施行の完成)をめざす存在です。菩薩道として、富を得ることは否定されていませんが、それは自分の欲望を満たすためではなく、衆生済度のために使われる富です。なお、布施を実践しているとしても、真心からの行為でない場合は「不浄施」になってしまいます。本論には不浄施の具体例がさまざまに説かれています。今回は不浄施の学びを通して、日頃の私たちの布施のあり方を振り返ってみましょう。

 

 不浄な布施とは?

 ここでは、不浄施として、施物が不浄な場合、施者の布施の仕方が不浄な場合、施者の布施の動機が不浄な場合の三種類が説かれています。

 施物が不浄なものとしては、悪業によって得た物や金を施すこと、心配や恐怖をおぼえるような布施、自分の好むものは惜しんで与えず好まないものを与えるような布施、自然にできたものや豊かに実ってどこでも簡単に手に入るものを布施すること、役に立たぬものを布施すること、などが挙げられます。

 布施の仕方が不浄なものとしては、相手に媚びへつらう布施、いやいやながらの施し、軽蔑した心で与える布施、やめておけばよかったと後悔しながらの布施、大声で叫ばれたので急に与えるような布施、投げ与える布施、手渡ししない布施、人より劣ってはならないという競争心から与える布施、軽少のため劣等感をもって与える布施、多いのをたのんで優越感で与える布施、腹立ちの心で与える布施、時機に合わない布施、智慧ある人から見たら叱られるような布施、などが挙げられます。

 動機が不純な布施としては、ほめられることを期待しながら行う布施、何かの報いを期待して与える布施、見かえりを求める布施、何かよいことがあるだろうと期待して行う布施、しないと悪いことがあるかもしれないと怖れて行う布施、稀なことだとほめられたので行う布施、ほめてくれたので与える布施、叱られたり悪口を言われたので与える布施、自分の信心を明らかに見せつけるための布施、味方に引き入れようとして行う布施、何も因縁がないのに与える布施、慈悲の心もなく与える布施、相手に言うことを聞かせるための布施、親近関係になるために与える布施、などが挙げられます。

 

 布施とは心の修行

 このように正しい布施を行うことは並大抵ではなく、布施をしようとする心も折れてしまいがちですが、布施の本当の目的は、自分の心のあり方をみつめるところにあります。

 私たちが守るべき十善戒の中に「不慳貪」がありますが、慳とは「物惜しみをする心」、貪とは「独り占めしようとする心」です。慳貪の心で行う布施はすべて不浄施であり、布施の修行は、慳貪の心を戒めて慈悲心を養うところにあります。

 菩薩の布施は、行じても行じたことを心にとどめず(=空)、布施の形にこだわらず(=無相)、布施による果報(見返り)を求めない(=無願)という「三解脱門」に基づいて行われることをめざします。菩薩は、自分を捨ててかかる心を持ち、衆生への慈悲心に満たされ、仏法から離れないように布施を行ずることが求められるのです。

 仏法に照らして正しい心での布施ができているかどうかをチェックしてみましょう。自分の心を満足させるだけの布施になっていないだろうか。周りがするのに自分がしないのは恥ずかしいからという布施になっていないだろうか。また、金額や量が多ければよいというものでもありません。たくさんの物品を与えた結果、相手がかえって怠慢を覚えて堕落してしまうというケースもあるかもしれません。相手の立場に立ち、時と場にふさわしい、適切な量の、まごころからの布施を心がけたいものです。

 

 法施の心得とは

 布施として、もう一つ重要なのが法施です。本論では、説法をする立場にいる者が特に心がけたいこととして、「広く多くのものを学び、一切の言葉や文句の意味を知り理解していること」「よく世間・出世間のすべての物柄の実相を知っていること」「禅定の智慧を得て教法に随順していること」「自分の説く道理を自分で実行していること」が説かれます。

 また説法の座では、「高座に昇るとき、まず衆生に対し、恭敬礼拝して後に座に昇ること」「人の容色に惑わされないこと」「威儀を正し、和顔を以て説き、怖れたり、ひるんだりしないこと」「悪口や質問や論難があっても忍辱を行ずべきこと」を守るように、と説かれます。

 さらに「自らの身を軽んじないこと」「聴衆を軽んじないこと」「説法の内容を軽んじないこと」「名聞利養のためにしないこと」も大切な説法者の心得として示されています。(棟高)



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